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若手研究活動奨励賞 受賞者一覧

国際ジェンダー学会では、専任ないし正規雇用契約をもたず、研究財源の確保に困難をかかえている若手会員の研究活動を支援することを目的に、「国際ジェンダー学会研究活動奨励賞」を2020年度に創設しました。 以下に各年度の受賞者、及び研究活動報告書を掲載します。 受賞者と研究課題一覧 ※リンクから研究活動報告を読めます(ただし最新年度を除く)。  ◆第1回(2020年度) 髙橋 香苗「働く女性の服装規範に関する研究」 福永 玄弥「『良き市民』への包摂をめぐるポリティクス——韓国の徴兵制における同性愛者の処遇を事例に」 李 亜姣 「土地金融化による収奪――中国都市中間階級女性の負債事例分析を中心に」 研究活動報告書はこちら   ◆第2回(2021年度) 大野 恵理「移住女性の再生産労働と「住民」としての承認——妊娠・出産に着目して」 小野 道子「女の子の安全保障に関する考察——パキスタンの『ベンガリー』ディアスポラの娘と母にとっての『路上』」 陳 予茜「中国における一人っ子女性の親子関係に関する研究」 研究活動報告書はこちら   ◆第3回(2022年度) 郭 立夫「『寒冬の季節』の闘争——中国における性的マイノリティ運動の再考」 児玉谷 レミ「ポスト近代の軍隊としての自衛隊の軍事的男性性の構築——自衛官たちの語りから」 新倉 久乃「タイ女性の高齢期のライフプランへの来日経験の影響——在日タイ女性と帰国 したタイ女性の語りから」 文 可依「中国のフェミニズム行動派の運動におけるフェミニズムの政治と性的マイノ リティ」 山本 沙希「現代マグリブ女性の起業実践と法——『手工芸職人証明書』発行制度とのかかわりから」 研究活動報告書はこちら   ◆第4回(2023年度) 于 寧「中国当局の政策から読み解く『同性間の親密な関係』に対する認識パターン」 内田 賢「東日本大震災被災地における「災害と多様性」の再考──宮城県の草の根女性団体を事例に」 加藤 穂香「デジタルメディア時代における<ジャーナリズム界>の変容──『女性ジャーナリスト』へのインタビュー調査から

2022年「国際ジェンダー学会研究活動奨励賞」研究活動報告書

1.氏名:郭立夫 2.研究活動報告  2023年5月15日、例年だと中国の性的マイノリティ団体が国際反ホモフォビア、トランスフォビア、バイフォビアの日(International Day Against Homophobia, Biphobia and Transphobia)の5月17日を目前に、様々なイベントが用意されている時期であるはずが、これまで性的マイノリティの社会運動を牽引してきた北京LGBTセンター(北京同志中心)が活動中止を発表した。センターは自らのWeChat公式アカウントで「不可抗力によって、北同文化は本日をもって運営を中止する」と発表した。中国でよく使われているこの「不可抗力」という表現は、中国政府を中心とする一連のアクターによる妨害を意味する。  実際、性的マイノリティコミュニティの存在及びその活動に対して、中国政府は複雑な態度を示してきた。1970年代末からの改革開放を契機に、中国は経済体制だけではなく、法制度や医療制度などに対しても大きな改革を促した。その中では、特に1997年の『刑法』改正と2001に発表された『中国精神疾患診断基準第三版(中国精神疾病診断標準第三版、以後CCMD-3)』がとりわけ同性愛者の「脱犯罪化」及び「脱病理化」の道標とされている。しかし、この「脱犯罪化」と「脱病理化」の道標のどれも性的マイノリティの権利保護を理由に実現されたものではなく、改革開放という大きな国家政治の中で実現されたと理解することが適切である。  そこで、本研究は現代中国における性の政治はどのようなものなのか、そして性的マイノリティの社会運動の観点から、この性の政治はどのように作用し、どのような権力関係を構築しているのかという問題を検討した。中国における性的マイノリティの社会運動を理解するためには、個人の権利を尊重する民主社会を前提とする市民社会概念には限界がある。中国の市民社会研究は改革開放後のリベラリズムの政治思想を前提として展開され、市民社会の存在を中国的民主主義の実現の可能性として考えてきた。しかし、その理想は依然として自由な人権(とりわけ法的な権利主体)をその前提に有している。実際、アメリカにおけるクィア理論が近年論じているように、合法的なグローバル権利主体を前提とするクィア運動にはホモノーマティヴ(homonormative)な方向に走